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相続放棄をしたら不動産の管理責任はどうなるのか

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2023年3月末までは、相続放棄をしても、他に相続人がいない場合や相続人全員が相続放棄していた場合には、遺産である家や土地などの管理は継続する義務が発生していました。理由としては、被相続人の住んでいた家が死後も放置されることになれば、老朽化によって倒壊する恐れがあるなど、近隣住民に迷惑をかけないようにするなどがあります。
しかし、この従来の民法のルールに関して、全く関与していなかった相続財産を放棄しても管理義務が発生することが問題点として指摘されてきました。 そのため、2021年に相続放棄後の管理義務に関するルールが改正され、2023年4月より新しいルールが施行されました。
では、どのようにルールが変わったのか解説していきたいと思います。

目次

旧民法940条

旧民法940条

相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。

これは、どのような意味なのでしょうか。例を使ってご説明します。

被相続人:母親
相続人:息子と母親の姉
相続人である息子は、田舎に住む母親とは一緒に暮らしておらず、都心で生活していました。息子は、生活の基盤が都心になっているので、相続財産である実家の土地と家を相続しない決断をしました。そのため、相続放棄の手続きをしました。


相続放棄を行えば、実家の土地と家の相続権は、母親の姉(息子からみて叔母)に移ります。
しかし、旧民法では、息子が相続放棄をしても、叔母が財産を管理できるようになるまでは、相続放棄した息子に管理義務が発生します。
また、もし叔母も相続放棄をすることにした場合、最後に相続放棄をした人(この場合は叔母)が、家庭裁判所で相続財産管理人の選任を申立てなければなりません。家庭裁判所が、管理人として適切であると判断した人を相続財産管理人に選びます。相続財産管理人は、被相続人の財産を処分・清算したり、債務がある場合は債権者に返済し、残った財産を国庫に帰属させたりする仕事を行います。
もし、相続財産管理人を選任しなければ、叔母の管理責任が継続し続けます。

これが従来の民法の相続放棄をした場合のルールでした。これが新ルールではどのように変わるのでしょうか。

改正された民法940条の条文

新民法940条

相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第952条第1項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。

従来のルールでは、相続放棄後の管理義務の対象者が不明確であると指摘されてきました。しかし、新940条では相続放棄をした者がどのような場合に管理責任を負うのかが明確になりました。
それが、「放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているとき」という一文です。どういうことかというと、従来のルールでは、全員が相続放棄した場合、最後に放棄した相続人が遺産を管理しなければなりませんでした。先ほどの例でいうと被相続人の姉(叔母)になります。しかし、民法改正後のルールでは、現に占有している実態がなかった相続人には、管理責任が移りません。「現に占有」とは、土地建物が自分の支配下にある状態を意味します。
つまり、先ほどの叔母が、被相続人と一緒に暮らしていたのではない場合、相続財産である不動産を「現に占有」していたとはいえないので、叔母に管理責任はないとういことになります。しかし、もし叔母が、被相続人の自宅に、被相続人と一緒に暮らしていたのであれば、相続財産である自宅を「現に占有」していたと言えるため、相続放棄後も管理しなければなりません。ちなみに、先ほどの例の息子は、被相続人である母親と一緒に暮らしていないので、相続放棄後の管理責任はありません。

別の例も考えてみたいと思います。

被相続人:父親
相続人:娘と父親の弟
父親と娘は、相続以前は、一緒に暮らしていました。母親はすでに他界しています。娘は、結婚して遠方へ引っ越す予定のため、唯一の財産である自宅を相続放棄することにしました。

従来の法律では、次順位の相続人である父親の弟(叔父)に管理責任が移っていましたが、新ルールでは、相続人(今回の例では父親の弟)が相続放棄すれば、最終的に管理責任を負うのは、「現に占有」している娘となります。

義務の内容

財産の管理義務から保存義務へと表現が変更となりました。呼び方が変わっただけであり、相続放棄しても、自分の財産と同じような注意を払って管理・保存する必要があるのは旧法においても改正法においても同じです。

相続放棄後に管理を怠った場合のトラブルについて

損害賠償請求のリスク

相続放棄をしても、ご自身に財産保存義務がある場合には、その財産をしっかりと保存しなければなりません。
保存義務を怠ったことで、財産が老朽化してしまい、結果としてその財産で債権を回収しようとしていた人が債権回収できなくなってしまうなどの問題が起きます。また、老朽化によって、建物の倒壊が起き、近隣住民へ被害が及んでしまうなどのリスクも想像できます。
そうなってしまった場合には、損害賠償を請求される可能性があります。財産の保存義務が発生した場合には、しっかりと保存の責任を負う必要があります。それが難しい場合には、相続財産清算人を家庭裁判所に選任してもらいましょう。

相続財産清算人の選任について

相続財産清算人に遺産を引き継げば、現に保有している遺産の相続放棄者であっても遺産の管理をしなくてもよいことになります。では、相続財産清算人を選任したい場合には、どのような手続き、書類が必要になるのでしょうか。
被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所での選任の申立てを行うこととなります。以下が、申立てに必要書類となります。

  • 1.申立書
  • 2.申立添付書類
  • ・被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
  • ・被相続人の父母の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
  • ・被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している方がいる場合、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
  • ・被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
  • ・被相続人の兄弟姉妹で死亡している方がいる場合、その兄弟姉妹の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
  • ・代襲者としての甥・姪で死亡している方がいる場合、その甥又は姪の死亡の記載がある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
  • ・被相続人の住民票除票又は戸籍附票
  • ・財産を証する資料(不動産登記事項証明書(未登記の場合は固定資産評価証明書)、預貯金及び有価証券の残高が分かる書類(通帳写し、残高証明書等)等)
  • ・相続財産清算人の候補者がある場合にはその住民票又は戸籍附票
    ※審理のために、追加書類の提出をする必要がある場合もあります。

相続人すべてが相続放棄した空き家はどうなるのか

相続人全員が、相続放棄した場合、相続放棄した人が誰も、占有していない(支配していない)状態の家は、誰が保存義務を負うのでしょうか。このような状況の時には、利害関係者(債権者など)や検察官が、家庭裁判所に相続財産清算人の選任申立てを行います。そして、相続財産清算人が保存を行い、債務を支払うなどして清算した後、残った財産を国庫に帰属させます。空き家の場合には、売却もしくは、国庫に入ることになります。

相続放棄をされる場合には、弁護士にご相談ください

相続放棄をされる場合は、保存責任の問題を含め、弁護士にご相談ください。弁護士にご相談いただければ、まず相続放棄が最善の選択肢なのかアドバイスさせていただきます。
また相続放棄は、相続開始を知ってから3か月以内に行わなければならず、期間も短いので確実に相続放棄を希望する場合には、弁護士に依頼することをおすすめします。そして、相続放棄しても、「現に占有している」遺産である場合には、保存義務が発生します。そのような場合にも、弁護士にご依頼いただければ、相続財産清算人の選任申立てもご依頼者様に代わり手続きを行い、手続きにかかる手間を省くことができます。
相続放棄についてご不明な点や不安なことがありましたら、一度シーライト藤沢法律事務所にご相談ください。シーライト藤沢法律事務所では、相続に詳しい弁護士が丁寧に対応させていただきます。



弁護士 阿部 貴之 写真 弁護士法人シーライト藤沢法律事務所

代表弁護士 阿部 貴之

神奈川県弁護士会所属。弁護士登録後、都内総合法律事務所、東京都庁労働局等を経て、平成27年に弁護士法人シーライト藤沢法律事務所を開設。依頼相続トラブルの相談実績は300件を超える。「依頼者の良き伴走者となるために」をモットーに、スタッフと共に事件解決へ向かって邁進中。好きな言葉は「二人三脚」「誠心誠意」。弁護士紹介

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